レポート「ホントはすごい!果物と野菜の物語 〜 和梨編」

REPORT vol.45

レポート「ホントはすごい!果物と野菜の物語 〜 和梨編」

開催日 : 2026年09月27日(日)

対象年齢 : 5歳〜12歳

ナビゲーター : 竹下大学

場所 : 川清園(東京都稲城市)

[ SCIENCE ]

一つの梨の向こうに、人と植物の長い時間。
稲城の梨園で、和梨の進化と味わいにふれた日

2026年9月27日(日)、東京都稲城市の川清園にて、
自然科学プログラム「ホントはすごい!果物と野菜の物語」を開催しました。

2回目となる今回のテーマは、和梨。

秋になると、私たちの食卓に並ぶ、身近な果物です。
シャリッとした歯ざわり。
口いっぱいに広がる果汁。
すっきりとした甘さ。

その梨の味の向こうには、植物の進化、品種改良の歴史、土地の風土、
そして梨を育てる人たちの長い時間があります。

ナビゲーターは、品種ナビゲーター・竹下大学さん。
そして会場は、江戸時代から続く稲城の果樹園、川清園さんです。

果物の進化を学ぶこと。
梨が実る場を見ること。
梨を味わい、品種ごとの違いを感じること。
育てる人の視点にふれること。

和梨という身近な果物を通して、「食べものを見る目」が少し変わっていく。
好奇心や観察する力、自分の感じたことを言葉にする力が、
自然にひらかれていく時間になりました。



Photo : Kaito Chiba
Special Thanks :川清園

果物の「近さ」と「遠さ」を考える

プログラムのはじめに竹下さんが広げたのは、制作中の「くだもの進化アートマップ」の原稿でした。

描かれているのは、日本で生産されている32種類の果物。
果物どうしが進化の中でどのようにつながっているのか、
そして人間が品種改良によって生み出してきた品種が、どの時代に生まれたのかが、
一枚の絵の中に表されています。

竹下さんは、子どもたちに問いかけました。

「この中で、似ている果物はどれとどれだと思う?」
「反対に、遠そうな果物はどれだろう?」

子どもたちは、絵を見ながら直感で考えていきます。

味が似ている。
形が似ている。
食べた感じが近い。
なんとなく違う気がする。

その感覚を出発点に、進化マップの線をたどっていきました。

リンゴと梨は、進化の上でも近い関係にあります。
一方、アボカドは多くの果物とはかなり離れたところにあり、
種をまいたときに双葉が出る多くの植物とは違う系統にあることも紹介されました。

実は、バナナやパイナップルは木のように見えても、実は草の仲間であること。
スイカやメロン、イチゴも、木になる果物とは違う植物のあり方をしていること。

いつも食べている果物が、マップの上では思いがけない場所に位置づけられていることに
子どもたちは驚き、身を乗り出していました。

見た目の近さ。
味の近さ。
植物としての近さ。

子どもたちは、自分の直感を出発点にしながら、果物を見る視点を少しずつ広げていきました。



日本にもともとあった果物としての和梨

竹下さんは、さらに子どもたちに問いかけます。

「みんなの好きな果物は、もともと日本にあったと思う? それとも、外国から入ってきたと思う?」

イチゴ。
パイナップル。
みかん。
パッションフルーツ。
柿。

子どもたちは、自分の好きな果物を思い浮かべながら考えます。

多くの野菜や果物、そして米も、日本列島にもともとあったものではなく、
外から入ってきたものが人の手で育てられてきました。

その中で、「和梨」は、日本にもともと生えていた植物をもとに、
人が選び、育て、品種改良を重ねながら、おいしくしてきた珍しい果物の一つです。
(日本原産は、和梨とハスカップだけ)

いま私たちが食べている和梨は、最初から今の姿だったわけではありません。

実を大きくする。
甘くする。
みずみずしくする。
食感をよくする。
傷みにくくする。
遠くまで運べるようにする。

人が「こうだったらいいな」と願い、観察し、選び続けてきた時間が、
一つの果物の中に重なっています。

身近な和梨が、進化と品種改良の長い物語につながっていることを教えていただきました。

梨の木の棚は、大人は中腰になるほどの低さ
その下で、ナビゲーターの竹下さんのお話しを伺います

日本で生産されている32種類の果物の、進化の系統と品種の生まれた時代がわかる
『くだもの進化アートマップ』監修:竹下大学、画:黒沼真由美(10月完成予定)

梨の木が育つ時間を知る

頭上には、袋に包まれた梨の実。
足元には、長い年月をかけて育った木の幹。
枝は低く広がり、その下をくぐるように歩きながら、梨が実る場所を見学しました。

梨は、一年に一度しか収穫の機会がありません。
木を植え、育て、実をつけるまでには、長い年月がかかります。

梨の木が、きちんと実をつける大人の木になるまでには、少なくとも十数年。
この梨園には、35年から40年ほど経っているものもあるそうです。

一つの梨が実るまでに、どれほどの時間があるのか。
そのことを考えながら、子どもたちは目の前に広がる木々を見つめます。

木を育てる。
花を見極める。
花粉を準備する。
受粉を助ける。
天候を読みながら、一年に一度の収穫に向き合う。

梨は、自分の花粉だけでは実りにくく、別の品種の花粉が必要になります。
川清園には、花粉を採るための特別な木もありました。

その一つは、ネパール原産の梨に由来する花粉樹。
川島さんのお父さまがネパールで出会い、検疫を通して日本に持ち帰ったものだそうです。

今ではその枝が、全国の梨農家に届けられ、花粉樹として広がっているとのこと。

稲城の一つの梨園から、日本各地の梨づくりへ。
目の前の木と結びつくことで、梨づくりの世界の広がりを感じることが出来ました。

江戸時代から続く「梨づくり」についてお話をしてくださった
川清園16代目の川島さん

ネパール原産の梨に由来する花粉樹
その実は少し小さめ

「甘い」だけでは終わらない、味の言葉

皆んなが楽しみにしていた、梨の品種食べ比べ。
この日、川清園さんにご用意いただいたのは、五つの品種です。

二十世紀、清玉、あきづき、陽水、新高。

竹下さんは、子どもたちにこう声をかけました。

「甘い、だけではなくて、どんなふうに甘いのか。ほかには何を感じるのか。言葉でも味を表してみよう」

梨を食べるとき、私たちはつい「甘い」「おいしい」と言ってしまいます。
けれど、よく味わってみると、その中にはいくつもの違いがあります。

香り。
甘さ。
みずみずしさ。
食感。
酸味。
後味。
噛んだときに、口の中から聞こえてくる音。

参加者たちは、食べ比べシートを手に、一つひとつの梨を味わいながら、
自分の言葉を探していきました。

「森の香りがする」
「川の香りがする」
「メロンみたいな香りがする」
「ふわふわした食感」
「シャリシャリしている」
「口の中に広がる香りが濃厚」
「少し酸っぱいけれど、さわやかな味」

同じ梨を食べても、感じ方は一人ひとり違います。
どの梨が好きかも、それぞれ違います。

「みんな違うから面白いね」

その違いを面白がること。
そして、自分の感じ方を大切にすること。
それを言葉にしてみると、他の人の感性も刺激すること。

竹下さんが教えてくださった、これらのことは、
私たち大人にとっても、うれしい気づきとなりました。

五つの品種を一つずつ味わい、
香りや甘さ、みずみずしさ、食感の違いを言葉にしていきます

品種の中にある、時間の層

「この中で、一番古い品種はどれでしょう。
一番新しい品種はどれでしょう。」

子どもたちは、味や見た目を手がかりに考えます。

二十世紀は、100年以上前から愛されてきた品種。
古い品種でありながら、今も多くの人に親しまれています。

そして新高も、長く愛されてきた古い品種の一つ。
大きく、香りがあり、風味がしっかりしている、晩生の梨です。

一方、あきづきや陽水は、比較的新しい品種。
甘さ、みずみずしさ、食感のバランスを求めて、品種改良が重ねられてきました。

梨の特徴的なシャリシャリ感は、果肉の中にある「石細胞」によるものです。

昔の梨は、もっとゴリゴリ、ジャリジャリとした食感だったそうです。
その石細胞が少なく、小さくなっていくことで、私たちが今「梨らしい」と感じている、
あのシャリッとした食感が生まれてきました。

今、私たちが「おいしい」と感じているものは、最初からそうだったわけではありません。

もっと食べやすく。
もっと香りよく。
もっとみずみずしく。
もっと多くの人に喜ばれるように。

人が願い、観察し、選び、育ててきた時間が、品種の中に重なっています。

一切れの梨を口にしながら、子どもたちは、味の向こうにある長い時間にふれていました。

自分の目で見極めて、一つの梨をもぐ

西洋梨は、収穫したあとに追熟させて食べる果物です。
一方、和梨は追熟しません。
木の上で熟し、収穫したそのときが、一番おいしいのだそうです。

ですが、スーパーに並ぶ梨は、店頭に届くまでの時間を考え、少し早めに収穫されることがあります。
一方、川清園さんは、直売のみ。
お客さまの食べるタイミングに合わせて、よりよい状態で収穫することができます。

同じ品種でも、収穫のタイミングによって味が変わると聞いて、
先ほどの食べ比べでいただいた梨の美味しさに納得しました。

いよいよクライマックスは、梨もぎ体験です。

川島さんに、おいしそうな梨を見分けるポイントを教わります。
大きさだけではありません。
色合い。ツヤ。形。下の部分の張り。全体のふくらみ。
川島さん曰く、「穫れ時の梨は、光って見える」のだとか。

子どもたちは、梨の木の下に入り、一つひとつを真剣に見比べます。

袋に包まれた梨をそっとのぞく。
下から見上げ、ふくらみを確かめる。
手を伸ばしながら、もう一度考える。

「これかな」
「こっちの方が光ってるかな」

収穫するのは、一人一個。

だからこそ、その一つを選ぶまなざしは真剣です。

川島さんは、参加者たちが選んだ梨を一つずつ見ながら、色やツヤ、形のよさを褒めてくださいました。

「皆さん、よく見て選べています。どれもとても良い状態。いつでも収穫のお手伝いが出来ますよ!」

その言葉に、子どもたちの表情が少し誇らしげになります。

自分の目で見る。
教わったことを思い出しながら比べる。
一粒に絞る。
そして、自分の手でそっともぎ取る。

梨をじっくり選ぶ、その行為一つひとつが、食べものと感性で向き合う体験になっていました。

誰の梨が一番美味しそうかな?
川島さんがプロの目でジャッジします

食べものを見る目が変わる

今回のプログラムで子どもたちが出会ったのは、

果物どうしの進化のつながり。
日本にもともとあった果物としての和梨。
品種改良によって重ねられてきた人の願い。
梨の木が育つまでの長い時間。
農園の方が見ている、色や形や熟し方。

一つの梨の背景には、土地の風土、植物の性質、育てる人の観察、品種改良の歴史があります。

スーパーや直売所で梨を見かけたとき。
食卓で果物を口にしたとき。
旅先で、その土地の果物に出会ったとき。

「これは、どこから来た果物なんだろう」
「どうしてこの味になったんだろう」

この先、そんな小さな問いが、ふと心に浮かぶかもしれません。

身近な果物の向こうに、未知の世界が広がっている。
和梨を通して、その入口を親子で見つけた一日になりました。

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