レポート「ホントはすごい!果物と野菜の物語 」

REPORT vol.33

レポート「ホントはすごい!果物と野菜の物語 」

開催日 : 2025年08月03日(日)

対象年齢 : 親子・5歳〜12歳(小学生)

ナビゲーター : 竹下大学

場所 : 吉野果樹園(三鷹市)

[ SCIENCE, NATURE ]

「知る」って、たのしい。「考える」って、おもしろい。

2025年8月3日、SAYEGUSA &EXPERIENCEのサイエンスプログラム「ホントはすごい!果物と野菜の物語」が、東京・三鷹の吉野果樹園にて開催されました。ナビゲーターを務めたのは、長年品種改良に関わり、図鑑などの監修も手がける“品種ナビゲーター”竹下大学先生です。
ブルーベリーの摘み取り体験に、品種改良の歴史と未来をたどる講義、子どもたちの自由な発想によるワークショップ──子どもたちの「なんで?」「こうだったらいいのに」を大らかに受け止め、植物の不思議と人の工夫の物語が、楽しく、奥深く、展開されていきました。

 

「スイカとメロン、どっちが進化してる?」「バナナは野菜?果物?」

──植物分類の“ふしぎ”をめぐる冒険

「スイカとメロン、どちらが“進化している”と思う?」
先生の問いに、真剣な表情で手を挙げる子どもたち。

答えは、スイカ。
果肉内に散らばったタネが動物の口に入り、フンに混じって遠くへ運ばれ、種が広がる。
つまり「生き残るしくみ」をより備えているから、進化している──というお話に、驚きと納得の声が上がります。

「バナナは野菜」「アボカドは果物」など、身近な“当たり前”がひっくり返る体験に、子どもたちの目が輝きます。果物・野菜の違いとは?また、進化と品種改良の違いとは?
「知らなかった!」が次々に飛び出す、知的冒険の時間がはじまりました。

Photo : Kaito Chiba

野菜?果物?「ちがい」を感じるところから

「スイカも、メロンも、イチゴも──本当は“野菜の実”。甘い=果物ではないんです。」
植物学では、“木になるか、草になるか”が分かれ道。アボカドも栗も、果物。
そして、実は、バナナは、野菜──!

分類の“正しさ”よりも、「なんで?」「知らなかった!」が芽吹くこと。
その気づきの瞬間こそが、SAYEGUSA &EXPERIENCEのめざす“本物の学び”のタネです。

 

「もっと美味しく、もっと便利に」

──シャインマスカットに見る“努力の味”

続いては、現代の品種改良の話。
皮ごと食べられる、タネがない、香りが良い…その全部を叶えたシャインマスカット。
吉野果樹園さんでも栽培している、近年とても人気のあるブドウ品種です。

でも、皮が薄くなれば“割れやすく”“カビやすく”もなる。
「それでも美味しく、丈夫にするにはどうしたら?」
そんな課題に、農家と研究者が長年取り組んできたストーリーも紹介されました。

「“食べやすさ”も、品種改良の大事な目的なんです」
ピーマンの種やにおい、ブドウの皮、トマトの汁の量などなど…生活の中の“ちょっとした不便”からも、新しい野菜や果物が生まれていることを、子どもたちは初めて知りました。

ブルーベリーの多様性を五感で感じる時間

講義の後はいよいよ、吉野果樹園のブルーベリー摘み体験へ。
70種類以上のブルーベリーを育てる吉野果樹園。この日は6品種ごとの甘さや酸味、香りのちがいを感じながらの味比べに。「葉っぱの陰の方がよく熟した実が残っている」など、吉野さんのアドバイスをもとに、五感をフルに使って好きな品種を選びおいしい実を探します。

・大粒で香りが強いもの
・小さめでも酸味と甘みのバランスが際立つもの
・皮が柔らかく、種の食感が気にならないもの

「ブルーベリーにも、こんなに種類があるなんて!」子どもたちは目を丸くしながらも、真剣なまなざしで実を選び、味わい、慎重に摘んでいきます。

ブルーベリーを摘みながらの、ちょっとしたアトラクションも意外な盛り上がりを見せました。
その名も「100gぴったり競争」。
大人たちが皆、ほんの少しオーバーする一方で、子どもたちは50g〜70gと控えめ。100gぴったりを目指して「あと少し…」と再チャレンジするその姿にも、“感じる力”の芽生えが見えました。

 

名前から見えてくる“果物の顔”──ブルーベリーに和名をつけてみよう

「ブルーベリーにぴったりの“和名”を考えてみよう!」というユニークな試みも。
子どもたちが考えた名前は、どれも詩のように美しく、ブルーベリーの姿をあらためて想像させてくれます。

青しんじゅ:小さく、宝石のように輝く果実
蒼藤(そうとう):蒼い実が垂れた姿と、藤のように紫がかった色合いから
小さな星のつぶ:星形の花の跡と、夜空のような色をイメージして
ゆっかた:夏の果物だから。夏→お祭り→浴衣!かわいい音にアレンジ

「名前をつける」ことは、「どう見えているか」を考えること。
小さな果実を五感で味わった子どもたちの感性が豊かに広がった体験となりました。

自由な発想が未来をひらく。子どもたちの「こんなのあったらいいな」

「では、みなさんなら、どんな果物や野菜を作ってみたいですか?」
美味しいブルーベリーを味わったあとのワークタイムで飛び出したのは・・・

ピンクのイチゴ、ハート型のイチゴ、寒さや病気にも強い日本でも育てられるバナナ、タネのないサクランボ、“おみくじ”が入っている果物、皮まで全部食べられる野菜みたいなミカン──

自由でユニークなアイデアの数々。
「もっともっと大きな粒のブルーベリーがあればいいのに」という声には、「実はもう500円玉くらいのサイズのものもあるんですよ!」と竹下さん。

竹下さんは子どもたちのアイディア一つひとつに耳を傾け、笑顔でこう話します。
「今日この場で芽生えた想像力が、“未来の農業”につながっていくのかもしれませんよ。」

家庭で育ててみよう──“わたしのブルーベリー”

お土産は、家庭でも育てやすい品種「ジュエル」の苗。竹下さんが“家庭栽培のためのおすすめ品種”として選んだ、自家受粉が可能な1株でも実をつける新品種です。
この日に合わせて苗を準備してくださった吉野さんから、育て方や剪定のコツもたっぷりレクチャーいただきました。

・水やりは毎日。乾きやすい夏場は特にしっかりと朝夕に。冬はほぼ不要(月1回程度)。
・半日陰でも育つが、完全な日陰はNG。夏は直射日光が強すぎると傷むので、遮光ネットなどを使うと良い。
・鉢が小さいと根が窮屈になるので、大きめの鉢に植え替えると成長もよくなる。
・剪定のベストタイミングは冬。すべての葉が落ちてから。
・枝の色(オレンジっぽいものが元気)を見て、太く元気な枝を残し、細かったり曲がったりした枝を剪定する。
・かわいそうと思わずに9割〜7割を剪定すると、実が多く着きすぎることなく、6月頃には美味しい実がなる。
・思い切って枝数を減らすことで、翌年用の元気な枝が株元から生えてくる

「農家では、あえて花を全部落として実がつくのを休ませて、体力を温存させることもあるんです」
果物は1年で枯れることのない果物は、“育ててみる”ことで見えてくる世界がある。そんな学びが、おうちへと続いていきます。

植物の命のつながり。人の知恵の積み重ね。
そして、子どもたち一人ひとりの「もっとこうだったらいいのに」という願い。

「知ること」や「考えること」が、未来を形づくる。
この体験が、子どもたちの中でじっくりと根を張り、いつか大きな実りとなりますように。

大切なお子さまに、本物にふれる時間を。
次の&Eプログラムで、お会いできるのを楽しみにしています。

 

今回の&Eプログラムは、
東京の農林水産業や名産品、都市農業の魅力を発信するメディア「東京グロウン」でも
詳しく紹介される予定です。執筆は竹下大学さんです。

https://tokyogrown.jp/

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