
REPORT vol.35
開催日 : 2025年11月9日(日)
対象年齢 : 6歳〜12歳
ナビゲーター : 春風亭昇々
場所 : 光明寺(港区)
[ CULTURE ]
「自分の話で、誰かが笑ってくれる。それって、すごくうれしい。」
そんな子どもの言葉が聞こえてきた、秋の日の光明寺。
東京都港区の光明寺で開催された、落語の体験プログラムの様子をレポートします。
Photo : Kaito Chiba
光明寺の本堂に足を踏み入れると、香の薫りと、揺れる灯明の光。
その奥には、ご本尊が静かに佇み、
優しいまなざしで子どもたちを迎えてくれているよう。
「なんだか、ここはいつもとちがう場所だ…」
そんな空気を、全身で感じ取っている子どもたち。
厳かな空気に包まれた、背すじが自然と伸びるその場所で、
“どんな世界が立ち上がるんだろう”という小さな期待と緊張が、
参加者の胸の中でそっとふくらんでいきます。
やがて昇々さんが高座に座り、
「今日は、いっぱい笑いましょう」と語りかけると、
それまで緊張していた空気がふっとほどけました。
落語とは、言葉と所作だけで世界を描き出す話芸。
登場人物がめまぐるしく入れ替わり、場面が自在に展開していきます。
子どもたちは身を乗り出し、笑いの波に揺られながら
想像の世界に飛び込んでいく。
落語のはじまりは、耳をすませるところから。
昇々さんの声のトーン、語尾の伸び、ちょっとした間(ま)を
まるで音楽を聴くように楽しんでいる子どもたち。
「いま、どうしてあんな顔したの?」
「このあと、どうなるのかな!」
目を輝かせながら、小さなからだが前のめりになっていきます。
やがて、ぽつ、ぽつ……と笑い声。
それが連なり、はじけるように広がり、お堂いっぱいの“笑いの渦”に。
笑うたびに、子どもたちの表情もほどけていきました。
落語は、ただ笑いを楽しむだけでなく、
言葉の間合い、目に見えない情景、
そして「人の心の機微」を味わう文化でもあります。
昇々さんの噺に引き込まれていく子どもたち。
登場人物を想像しながら、物語が自分の中で育っていく時間。
扇子をつかって “熱いそばをすする” 所作にチャレンジ。
アドリブも飛び出して、会場があたたかな笑いに包まれる。
小噺づくりのワークショップでは、今年も親子をシャッフル。
初めて出会う大人と子どもが、同じテーブルで頭を寄せ合います。
考え、迷い、助けあいます。
世代の違う視点が混ざり合うことで、
一人では思いつかない“小さな物語”が生まれていきました。
誰かの言葉が、誰かの発想を引き出す。
そのプロセスそのものが、
子どもたちにとってかけがえのない学びとなりました。
大人と子が同じテーブルで”笑い”を考える。
世代の違う視点が混ざり、小さな物語の種が育つ時間。
ほんの数分前まで客席にいた子が、
いまはひとりで高座に座り、自作の小噺を語り始める。
その瞬間にあらわれる変化は、とても静かで、とても大きいものです。
昇々さんは
「笑いは、誰かを喜ばせたい気持ちから生まれます」
と声をかけます。
その言葉が、子どもたちの背中をそっと押し、
小さな声がしだいに、確かな“表現”へと変わっていきます。
高座での子どもたちは驚くほど堂々と、自分の言葉で物語を届けていました。
本堂に響く笑いと拍手。
それは、“おもしろかった”以上の、心が結ばれた瞬間 のようでした。
はじめての高座とは思えぬほどの、堂々とした噺家ぶり。
自作の小噺も大笑いを誘って、昇々さんもびっくり。
「一つ目以来、久しぶりの太鼓」を披露してくれた昇々さん。
太鼓の音が、高座へ向かう子どもの背中をそっと押す。
お寺の本堂という場所は、不思議な空間です。
厳かで静かなのに、なぜか心がやわらかくなる。
その空間の中で、子どもたちは自由に想像し、自分の声と言葉で表現することを楽しみました。
保護者の方からは、
「こんなに子どもが楽しそうにのびのびと表現する姿、はじめて見ました」
「家族で同じことで笑える時間が、こんなに豊かだとは」 という声も聞かれました。
笑いは、心を軽くし、言葉を自由にし、
“自分を表現する力”をそっと引き出してくれます。
落語は、子どもの“感じる心”を確かに育ててくれます。
言葉を使って、想像し、自分で人を笑わせる物語をつくる。
この日生まれた、あたたかな笑いは、
子どもたちの心の中に、小さな灯として残っていくはずです。