
REPORT vol.37
開催日 : 2025年12月13日(土)
対象年齢 : 0歳〜12歳
ナビゲーター : 広瀬悦子&伊藤花りん
場所 : ソノリウム(杉並区)
[ ART ]
会場に集まったのは、2歳から13歳までの子どもたちと、そのご家族たち58名。
年齢も、これまでの音楽体験も、それぞれ異なります。
それでもこの日、客席には不思議な一体感が生まれていました。
それは「静かにさせられている」空気ではなく、
音と光に引き寄せられて、自然と耳と目が開いていくような時間でした。
2025年12月13日、東京・杉並区の音楽ホール〈ソノリウム〉で開催された
SAYEGUSA &E プログラム「ピアノと砂のアラビアンナイト」の様子をレポートします。
Photo : Koji Shimamura
Special Thanks : KAJIMOTO
ソノリウムの客席は、舞台までほんの数歩。
ピアノの音は、空間に拡散する前に、
まず身体に触れるように届いてきます。
フランスに在住し、世界で活躍するピアニスト・広瀬悦子さんの演奏は、
音そのものの美しさだけでなく、
指の動き、呼吸、表情までが、ひとつの表現として立ち上がっていました。
「こんなに近くで、一流の方のピアノを聴くのは初めてでした。
音だけでなく、演奏している姿そのものに引き込まれました」
“子ども向け”に分かりやすくアレンジすることよりも、
本物を、そのまま差し出す。
その姿勢が、結果として、子どもにも大人にも届いていたように感じます。
演奏中、小さなお子さんたちの中には、
思わず体が前に動いてしまったり、
「いまの、なに?」「あれ、ぞうさんだね?」と親御さんに話しかけたり、
砂の動きが気になって、じっとしていられなくなる場面もありました。
けれどそれは、集中できていないからではありません。
むしろ、その世界に入り込めているからこそ起きる反応でした。
参加者の方からは、こんな声も届いています。
「隣の子どもが、目と耳をフル回転させて楽しんでいるのが伝わってきて、
その姿を見るだけでも、この場に来てよかったと思いました」
大人が「静かにさせなければ」と、構えてしまいがちな場面でも、
この日は、周囲のご家族がそれぞれの反応を受け止め、
子どもたちの没頭を見守っている優しい空気が、会場に満ちていました。
音と光が立ち上がるたび、
子どもたちの身体ごと、物語に引き込まれていく。
後半は、サンドアートのワークショップ。
スクリーンの中で展開していた世界が、今度は目の前のテーブルに現れます。
砂を置くと、光が当たり、形が浮かび上がる。
その仕組みを、言葉で説明する前に、
子どもたちはまず手を伸ばし、試し始めていました。
サラサラを超えた砂の手触りにびっくりして、
はじめはそっと触れていた子が、だんだん大胆になり、夢中になっていき、
「どうしたら、あんなふうに描けるんだろう?」
「この砂は、どこの砂?どうしてこんなにサラサラなの?」
と、自分なりの問いを持ち始めます。
体験を通して初めて生まれる、表現者への敬意。
その芽が、静かに育っていく時間でした。
観ていた世界に、今度は自分の手で触れてみる。
砂と光が、物語を“体験”へと変えていく。
砂を置く。光が当たる。絵が動き出す。
小さな手の中で、表現のしくみが少しずつ見えてくる時間。
今回の参加者の約4割は、&Eプログラムのリピーターでした。
同じ体験をしていても、
子どもが受け取るものと、大人が感じるものは違います。
「子ども向けの企画だと思っていましたが、私自身も、
こんな風に心をつかまれる音楽体験をしたことがなかったと気づかされました」
子どもは子どもなりに。
大人は大人なりに。
同じ場にいながら、それぞれの“気づき”を持ち帰る。
それが、&Eが大切にしている体験のかたちです。
砂の絵は、すぐに消えてしまいます。
音も、演奏が終われば、そこには残りません。
それでも、
あのとき身体が覚えた感覚や光景は、
それぞれの中に、静かに積み重なっていくはずです。
音に耳を澄まし、光を追い、
気づけば身体ごと、その場の空気に溶け込んでいる。
「ピアノと砂のアラビアンナイト」は、
ひとりひとりが違うかたちで心を動かされ、
その時間が、静かに家族の記憶に重なっていく。
そんな体験だったように思います。