レポート「縄文タイムトラベル2025 」

REPORT vol.34

レポート「縄文タイムトラベル2025 」

開催日 : 2025年10月11日(土)~13日(月)

対象年齢 : 7歳〜12歳

ナビゲーター : 寒川 一

場所 : 長者ヶ原遺跡(糸魚川市)

[ CULTURE, OUTDOOR, NATURE ]

森と子どもたち、雨が繋いだかけがえのない時間。

2025年10月11日〜13日、SAYEGUSA &EXPERIENCEの体験プログラム「縄文タイムトラベル」が、新潟県・糸魚川の長者ヶ原遺跡にて開催されました。3回目となる今回も、ナビゲーターを務めたのは、アウトドアライフアドバイザーとして長年、自然と向き合ってきた寒川一(さんがわ・はじめ)さんです。

石斧で木をたおし道具を作る。水を汲み、火をおこし、森の中で食を作る。丸木舟に乗り、海水から塩を作る。縄文の人々の暮らしを追体験しながら、子どもたちは「生きること」「つながること」を五感で学びました。

今回は日程の半分が雨。けれどその雨が、子どもたちにとって “より自然を感じる時間” をもたらしました。
小さな火の粒を見守り、木々のざわめきに耳をすませ、目に見えないつながりを感じた3日間。言葉だけでは教えることのできない学びが、そこには確かにありました。

今年の「縄文タイムトラベル」は、これまで以上に深く、静かに、心に残る体験となりました。

Photo : Kaito Chiba

雨の日の朝

子どもたちがさまざまなチャレンジを無事に終えた最終日は、朝から雨が降っていました。
いつもなら、焚き火のあとに残った灰や干し草マットを森に返す「お返しの時間」を行いますが、この日はそれが叶いません。ナビゲーターの寒川さんは、雨の音の中で静かに語り始めました。

「この灰はゴミじゃないよ。ちゃんと燃やした一粒一粒が、土の栄養になる。めぐりめぐって、僕たちのごはん、魚にもイノシシにも、野菜にも変わっていくんだ。」

子どもたちは真剣な面持ちで、目の前の灰を見つめていました。雨で少し湿ったその粒を通して、自然の循環を想像していたのかもしれません。
火をおこすときの苦労、炊き上がったご飯の湯気、森を渡る風――そのすべてが一つにつながっていることを、言葉ではなく肌で感じているようでした。

関係ないものなんて、ほとんどない。全部が全部を支え合って、地球という星ができている。みんなはその上で暮らしているんだよ。そのことを忘れないでね。」

灰を森に「返す」という行為ができなくても、自然とともに生きている自分たちを想う気持ちは、確かにそこにありました。

灰は、燃え尽きたあとに残る“いのちのかけら”
寒川さんの話に子どもたちは静かに耳を傾け、3日間を振り返りました。

自然が、教えてくれたこと

「火がつくことより、自分でやり切ったことが大事。」

寒川さんのこの言葉に、子どもたちはうなずきました。
火おこしがなかなか成功しなかった時間、風を読みながら薪を組み直した時間、仲間と励まし合った声。それぞれの挑戦の記憶が、言葉に呼応するように胸に浮かびます。

努力には答えが返ってくる。手を抜いたことにも、答えは返ってくる。」

自然と向き合った三日間を通して学んだことは、単なる技術ではなく、そんな「生きる姿勢」。
寒川さんの率直なメッセージを、子どもたちはまっすぐに受け止めていました。

自然が相手だからこそ、言い訳が通じない。火がつくかどうかは、風の向き、湿りと、自分の手と心の中にある。その実感こそが、彼らの心を強くしていったのかもしれません。

もしこの日、晴れていていつものように灰を森へ返していたら、こんなふうに静かに、心の中で考える時間はなかったかもしれません。雨が降ったからこそ、“返す”という行為の代わりに、“受け取る”時間が生まれたのです。

朝晩の食事のための火おこし。
4回目には全員が自分で火をつけることができるように。

竪穴住居の中で焚き火を囲み、1日の出来事を振り返る。

自然が人を受け入れ、人が自然を想う。
その関係の中に、ただ “生かされている” ということの確かさがありました。
木を使うこと、水を汲むこと、火をおこすこと、食べものをいただくこと。
すべての行為が、自然とのやり取りであり祈りなのかもしれません。

「ちゃんと役立てるからね、ありがとう。」と思いながら、石斧で木をたおす。

子どもたちが汲んだ湧き水は、縄文時代から枯れていないという。
「あの水
が飲めたのは、この森が健全に守られているから。もしこの自然が壊されたら、
きっとすぐダメになってしまう。」

森へ、心で返す

今回は、雨が、子どもたちに新しい気づきをくれました。
天候は決してベストではなかったかもしれません。

それでも寒川さんは言いました。
「子どもたちにとっては、より自然を感じられるツアーになったように思います。」

晴れているときには見えないもの――
雨の音、濡れた土の匂い、火を守る難しさ、仲間と寄り添うあたたかさ。
自然が少し厳しくなったときこそ、本当のやさしさや強さが見えてくる。
そのことを、縄文人が暮らしたこの自然が静かに教えてくれたのです。

プログラムの終わりに、寒川さんが言いました。
「次にまた会うとき、今日の“感じる心”を連れてきてほしい。」

子どもたちはうなずき、拍手を送りました。
雨に濡れた木々の向こうで、森が微かに微笑んでいるように感じます。
灰は返せなかったけれど、その気持ちはもう、森の中に届いています。

「またこの森で会いたい。」「また帰ってきたい。」
自然と向き合うことで生まれる小さな学びと気づきが、子どもたちの中で、これからもゆっくりと燃え続けていくことでしょう。

丸木舟で遠く旅した、太古の人々の勇気に思いを馳せながら。

翡翠が拾えるという海岸で、果てしなく広がる水平線を見つめた時間。

海水を煮詰めて何度も濾して
出来上がった塩はまろやかでほんのり甘く、最高の調味料に。

また、この森で会いましょう!

レポート・パーティーのお知らせ

12月7日(日)13:00より、銀座3丁目サヱグサ本館にて、写真をスクリーンに映しながらこの体験プログラムを振り返る「レポート・パーティー(お茶会)」を開催いたします。

ナビゲーターの寒川一さんをお迎えし、縄文タイムトラベルでの子どもたちの様子や気づき、そしてアウトドアを通じて子どもたちに伝えたい「生きる力」について、たっぷりとお話しいただきます。

参加者同士での交流や、お子さまの体験を振り返るひとときとして企画致しましたが、
来年以降のご参加を検討されているご家族の皆さまもご参加いただけます。

ご希望の方は、&E事務局(support@sayegusa-e.org)までご連絡ください。
皆さまとお会いできるのを楽しみにしております。

 

Special Thanks for 美山プロジェクト
Photo by Kaito Chiba / Text by SAYEGUSA &EXPERIENCE

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