レポート「はじめまして日本のこころ 2022」

REPORT vol.3-4

レポート「はじめまして日本のこころ 2022」

開催日 : 2022年10月30日(日)

対象年齢 : 3〜7歳 / 8歳〜12歳

ナビゲーター : 辰巳満次郎

場所 : 代々木能舞台(渋谷区)

[ CULTURE ]

10月30日(日)、東京・渋谷区の代々木能舞台にて &E PROGRAM 「はじめまして日本のこころ」が開催されました。京都西本願寺にある最古の能舞台(国宝)を模したという能舞台は、屋外に立っており、脇正面は庭に直接面しています。舞台に注ぎ込む秋の柔らかな陽射しが緊張を少しときほぐし、子どもたちはもちろん、保護者の皆さんも、伝統芸能の世界を楽しんでいました。

 

午前は小さなお子さま(3歳〜7歳)向けのプログラムを行いました。
まだまだ幼くても、その空間の厳かで特別な雰囲気を感じていたようで、背筋が自然にすっとのび、興味津々の様子で辰巳さんのお話に耳を傾けていたのが印象的でした。

ご挨拶の仕方、すり足、「高砂(たかさご)」の謡いや舞いを教わり、最後は3人づつ発表まで。美しい刺繡が施された「鬘帯(かづらおび)」という平たい紐を鉢巻(はちまき)のように巻いて、扇を手にした子どもたちの姿は、どこか誇らしげに輝いてみえました。

このプログラム後、辰巳さんからこのような感想を伺うことが出来ました。
「ちっちゃな子どもにこんなことやらせても、難しくてできないだろうと、大人が勝手に断じてしまうということが多かったと思うんです。それを本当に 3 歳くらいから体験させてみようっていう、そういう英断と言いますか、本当に素晴らしいと思います。私も保育園児をお稽古したりしておりますが、今日改めて、やっぱりそうでなくてはいけないなと、こちらも学ばさせていただいたような気がしています。」

今はまだ、はっきりとした事を理解していなくても、いつか必ず、「あっ、あの時、あの場所で、あんなことをしたな」と、凛とした空気感とともに、この時の気持ちを思い出してくれることは間違いない。そう感じています。

 

午後は大きなお子さま(8歳〜12歳)向けのプログラムを行いました。
能は「引き算」を楽しむ文化だといいます。それが能の所作や、見えないものを見て、聞こえないものを聞く、落ち葉のなかにやがて芽をだす植物の気配を感じるといった「幽玄」の表現にもつながります。そういう遊びを日本人は楽しんできたのだそうです。
8歳以上を対象としたこの回ではこういったお話や、左右の意味など日常の中に隠れて忘れられてしまった「日本のこころ」にまつわるお話を伺いながら、体験が進んでいきました。

子どもたちが楽しみにしていた「能面」体験では、
「これらの能面には、何百人、何千人という能楽師が着けてきた歴史が刻まれています。その一人に、あなた方が加わるのですよ」と、若い女性や年増女性、般若の面(おもて)など、数百年という長い歴史を刻んできた貴重なものを拝借することが出来ました。中でも「獅子頭」の面は、600年以上前の室町時代から伝わるものとのこと。あまりの歴史の深さに「想像もつかない」と、子どもたちからため息が出ました。
また、舞台横に飾られた美しい装束は「まだ新しいです」(辰巳さん談)と言いつつも100年前のもの。
「子どもにこそ、本物を体験させたい」というSAYEGUSAの想いを、辰巳さんが叶えてくださったのです。

しきたりに則り、黙礼をしてから面を着け、喜怒哀楽の表現を教わりました。一見すると無表情に見える女性の面「小面(こおもて)」も、ほんの少し頭の角度を変えるだけで泣いたり、笑ったりしているように見えます。これも、西洋の演劇の表現とは全く違う「引き算」の面白さなのです。
はじめはおずおずと、やがて堂々と舞台にたち喜怒哀楽を演じた子どもたちの姿に、保護者の方々から大きな拍手(と、ほんの少しの笑い声)があがっていました。

 

「やんちゃな子でもやっぱり舞台に上がってくると違うんです。何かちゃんとしなゃいけない場所なんだな、とわかってくれます。この頃は、ちゃんとしなければいけないシーンというのがどんどん少なくなっていて、あまり厳しく言わないような教育が広まっていますが、時には厳しくしないといけない場合もあると思うのです。もちろん押さえつけるような暴力的なことはいけません。やっぱりそれを自然に感じるというのが大事で、大人がそれを自然に醸し出さなければいけないのです。」辰巳さんはそう言います。

今回は素晴らしい人と空間が交わったからこそ、それが実現されたのではないかと思います。
このプログラムでは「能の技術を習うのが目的ではなく、能の世界を体験することで日本文化の良さをおおらかに感じとってほしい」と、辰巳さんと話し合いながら企画を進めてきましたが、子どもたちの吸収力の柔軟さ、背筋を伸ばした美しい佇まいや、キラキラとした表情を目の当たりにし、その成功を感じることが出来ました。

子どもたちが思いがけない世界にふれ、驚きや喜び、感動を呼び起こし、それぞれの「気づき」を見つけることが出来るような体験を、SAYEGUSAはこれからも提供していきたいと思います。

<&E フォトギャラリー>

Photo : Ko Tsuchiya

ご参加された保護者さまの声

ご参加いただいたプレ会員の皆様には心よりお礼申し上げます。
貴重なご意見の一部を抜粋してご紹介いたします。

●子供にも手加減をされない素晴らしい内容だったと思います。能のファンも増えやすい環境になってくると感じました。質疑への対応も素晴らしかったです(子ども目線にしっかりなっていて)、先生とサヱグサさんのすり合わせの結果かしらと感じました。(満足・5歳)

●子供達が真剣に取り組む姿をすばらしい舞台で見られたことや、小道具も古くから使っていらっしゃる物をお貸しいただけたことなど、貴重な経験だと思いました。(とても満足・4歳)

●貴重な体験をさせていただきありがとうございました。きちんと振る舞うことができませんでしたが、記憶に残る体験になりました。(とても満足・3歳)

●日本の伝統に触れることができた大変貴重な時間でした。本物に触れることの大切さを改めて感じ、便利な世の中ですが、日本人として大切な本物を子供に伝えたいと思いました。(とても満足・4歳)

●めったに体験出来ないことに参加出来、子供にとって一つ興味が広がったようです。(とても満足・5歳)

●本日は貴重な体験の場をありがとうございました。「はじめて知った日本の心」がたくさん散りばめられた、本当に素晴らしい本物の体験ができました。お能の世界はまだ子どもには難しいと考えておりましたが、本日をきっかけにこの体験を通して様々な日本文化への世界が拡がることと思います(能だけにとどまらず)。今後のプログラムも楽しみにしております。(とても満足・7歳)

●日本文化に触れることがいかに大切か、娘と共に学ぶことが出来ました。本や映像でしか知ることのできない能の世界を実際に体験出来て、娘も大人になっても記憶に残る体験だったと思います。有難うございました。(とても満足・8歳)

●日本の伝統文化に接する興味をもつきっかけになったと思います。本物体験は有り難く、貴重です。(とても満足・9歳)

●日本の人間国宝の辰巳先生に習わることが出来たこと、場所が特別であったことです(とても満足・8歳)

●空間を通じた特別な体験が素晴らしいです。(とても満足・12歳)

●能面をつけてどうだったかを、帰り道で嬉々として話してくれました。(満足・8歳)

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