9月下旬、初秋の風が心地よく吹き抜ける長野県黒姫のアファンの森で、親子を対象としたプログラム「森とうたう」が開催されました。この二日間にわたる体験は、自然の中で様々な生物たちとふれあいながら、音楽を感じ、心を解き放つ、まさに「センス オブ ワンダー」を呼び起こす旅となりました。
プログラムをナビゲートしたのは、奇跡の歌声を持つシンガー・高橋あず美さん。彼女の歌声が、アファンの森に響き渡った瞬間、その場にいた全員の心が一瞬で自然と共鳴しました。アコースティックギターを奏でるHISAさんとのデュオが作り出すハーモニーは、森の音と溶け合い、まるで自然そのものが一つの大きな楽器となって演奏しているかのようでした。
Photo : Ko Tsuchiya
森の息吹と一体になる瞬間
プログラムの始まりは、森の中をゆったりと歩く散策から。アファンの森のスタッフさんに案内されながら、秋の森を丁寧に観察しました。耳をすますと、風に揺れる木々のささやきや、鳥たちのさえずり、足元では葉が擦れる音が響き、遠くには小川のせせらぎが聞こえます。森そのものが優しく包み込むような空間となり、人間と自然が同調し始めました。普段、忙しい生活の中では聞き逃してしまいそうな自然の音に耳を澄ませることで、私たちの心が少しずつ解放されていくような気がしました。
子どもたちが枝や草笛などを使って、森の音やあず美さんの歌声、Hisaさんのギターと即興セッションを楽しむという貴重な時間もありました。木漏れ日の中でのアコースティックライブは、まるで森そのものがコンサートホールとなり、風や鳥の声までもが音楽の一部として響いていました。子どもたちの無邪気な笑顔と、高橋あず美さんの歌声が重なり合い、その場は一瞬、時が止まったような魔法の空間となりました。
キャンプファイヤーとともに訪れる「森の夜」
日が沈みかけた「マジックアワー」。森の空気が少しずつ変わり、静かに深まっていくその瞬間、キャンプファイヤーの炎が灯されました。パチパチと燃える音、暖かなオレンジ色の光が闇に浮かび上がる中、参加者たちは森の静けさとともに、ペンション竜の子さんが用意してくださった美味しいディナーをいただきながら、ゆっくりとした時間を過ごしました。
夜が深まる中、曇り空で星空は見えなかったものの、夜の森には独特の神秘的な雰囲気が漂います。
ホースロッジに移動して行われたライブパフォーマンスは、馬たちの存在をそっと感じながら。
歌声とギターの音色が夜空に溶け込むように響きわたります。高橋さんの歌声が優しく心を満たしていくような体験を味わった後は、子どもたちの歌声披露も。
自然の声を紡いで、心を歌にする
二日目は、森の中で感じた音や気持ちを形にする作詞作曲のワークショップが行われました。子どもたちは、高橋さんとHISAさんの指導のもと、自分たちのイメージを歌にしていきます。
「どんな曲にしたい?」という高橋さんの問いに、子どもたちは「明るくて元気な曲!」と口を揃えて答えます。「鼻歌で歌いたくなるような曲」と、思い思いのメロディーを口ずさむ子どもたちに、Hisaさんが即興でギターを合わせます。
歌が生まれた瞬間、森と心がつながる
約2時間のワークショプで、アファンの森で感じたすべての音、風、匂い、そしてそこに集まったみんなの気持ちが一つになり、とてもすてきな歌が完成しました。子どもたちの生き生きとした表情、高橋あず美さんの優しいサポート、HISAさんのギターが調和し、森の静寂が一瞬にして感動の波に包まれました。
歌詞は、森を探検し、仲間と過ごしたひとときの楽しさをそのまま歌に乗せたものでした。「空のした 森のなか みんな仲良し」というフレーズには、自然との一体感と、ここで築かれた友情が鮮やかに描かれていました。
歌のラストは「この森で また会おう アファンの森 永遠になる」。アファンの森への深い愛と敬意が胸に広がり、歌声はどこまでも澄んだ空へ、そして森を見守るニコルさんへと届いていくようでした。
完成した歌をニコルさんの眠る墓石に捧げる終わると、その場は一瞬の静寂に包まれました。空気が張り詰め、風が木々を揺らし、まるで森全体が子どもたちに感謝の気持ちを伝えているかのよう。私たちは、何か大きな存在とつながった感覚を共有し、アファンの森に息づく生命の神秘を感じずにはいられませんでした。
心の豊かさを育む、かけがえのない時間
このプログラムを通して、私たちは自然の美しさと音楽の力を再発見し、日常の喧騒から解放され、心の豊かさと感性を大いに育むことができました。普段は感じることのない静寂や、自然が奏でる音に耳を傾けながら、家族や仲間と共に過ごす時間。その一つひとつが、かけがえのない宝物となりました。
「森とうたう」は、私たちが忘れがちな自然とのつながり、そして自分自身の内側にある感性を取り戻すための、深く心に響く体験でした。森と人、音楽と感情が一体となったその瞬間は、参加者全員にとって特別な記憶として、これからも大切に胸に刻まれていくことでしょう。